∀ガンダムの世界観
∀ガンダム(ターンエーガンダム)は、富野由悠季の監督したガンダム関連作品の中でも、非常に特異な世界観と哲学を持つ作品である。
時代背景
18~19世紀のアメリカの地方都市を思わせる、牧歌的で、半ば資本主義的、半ば封建的な社会が舞台である。その社会では、ほとんどの人は、農業と初歩的な製造業に従事している。
ただ、その社会は、現実の19世紀アメリカと異なり、永遠に今と同じような生活、半封建的社会秩序が続くと信じており、人々の心のなかには経済や科学技術が発展するという「近代的」歴史感覚は存在しない。
つまり、彼らは、極めて長期に渡る社会の停滞の中にいるのである。
そして、彼らは、はっきりした歴史の記録を持っていないが、過去の社会に関する漠然とした言い伝えを持っている。
それは、人類は、かつて、増えすぎた人口問題を解決するため、宇宙移民が行われたことがある、というものである。
宇宙移民の後、度重なる大量破壊兵器による戦争が起こり、その結果、科学技術や経済の発展は停滞し、やがて、宇宙開発の技術をはじめとする高度な科学技術は放棄された、というのである。
一方、彼ら地球住民からは忘れられていたが、宇宙に進出した人々の子孫も存在した。彼ら宇宙移民の子孫は、月面都市に集まって生活するようになっていた。彼らの社会でも、経済や科学技術は停滞するようになり、多くのスペースコロニーは維持できなくなり放棄されていたのである。
物語の始まり
月面都市の指導者は、高齢の女性、ディアナ・ソレルであった。彼女を中心とする月の住民達は、地球上で、はるか昔に自分たちの先祖が住んでいたと伝えられる土地(どうやら、かつてアメリカ合衆国と呼ばれた地域の一部らしい)に戻り、その土地に自分たちの国を建設したいという希望を持っていた。
月の指導者たちは、先遣隊として、数名の少年少女を地球に送り、地球の社会で生活させることとした。本作の主人公は、この先遣隊のひとりである。
また、月の指導者は、北アメリカにある成立している小さな国家群に対して、自分たちが望む土地の返還を求めるため、小規模な軍隊を含む外交使節を派遣した。
しかし、月住民と地球住民の交渉は進まず、派遣された軍隊は地球の住民の過剰な反応を生んでしまう。
兵器類
この作品では、他のガンダムと異なり、モビルスーツなどの兵器は作中で設計、生産されるものではない。兵器類は、ほとんどが、地中から掘り出された遺跡の一部であったり、古い時代から引き継がれた技術であったりで、作中でも、どのような原理で動作するのかすらはっきり分からない兵器が多数登場する。
特徴
本作は、富野由悠季自身が監督でないものも含め、他のガンダム作品すべての総決算として作られたように見える。
他のガンダム作品よりもはるか未来を舞台にした作品である。しかし、どのガンダムの後日譚なのか曖昧になるように作られており、いわば、どのガンダムの続編としても解釈できる作品である。
この作品には、下記のように、他のすべてのガンダムの物語の構造を意図的に逆にした様に見える部分が散見される。
・他のガンダムでは、人類のへの移民がひとつのテーマであるのに対し、この作品では、人類の宇宙からの帰還がテーマである。
・ほかのガンダムでは、ワガママな少年が主人公であり、世界全体の命運を担うことになることが多い。それに対し、この作品では、世界の全体に影響を与えるのは高齢の女性である(一応の主人公は少年であるが、彼自身、非常に大人びた、他のガンダムの主人公と大きく異なる性格である)。
・他のガンダムが技術革新による社会や意識の変化がテーマであるのに対して、この作品では、技術の停滞による社会や意識の変化が大きなテーマである。