うめき出す、といふのがダミアの唄ひ方の本当の感じであらう。そして彼女はうめくべく唄の一句毎の前には必らず鼻と咽喉の間へ「フン」といつた自嘲風な力声を突上げる。
「フン」「セ・モン・ジゴロ…………」である。
これに不思議な魅力がある。運命に叩き伏せられたその絶望を支へてじり/\下から逆に扱き上げて行くもはや斬つても斬れない情熱の力を感じさせる。その情熱の温度も少し疲れて人間の血と同温である。
彼女の売出しごろには舞台の背景に巴里の場末の魔窟を使ひ相手役はジゴロ(パリの遊び女の情人)に扮した俳優を使ひ彼女自身も赤い肩巻に格子縞の Basque といふ私窩子型通りの服装をして彼女の唄の内容を芝居がゝりで補つたものだが、このごろは小唄専門のルウロップ館あたりへ出る場合にはその必要は無い。墨一色の夜会服に静まつても彼女の空気が作れるやうになつた。
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